Vol. 18 「世界はハイ・ポテンシャルズが競争している。日本のぬるま湯に浸かっている場合ではない」

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政治経済学術院教授
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所所長
白木 三秀

1951年滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年4月より早稲田大学政治経済学部教授。2005年より同大学政治経済学術院教授。専門は、社会政策、人的資源管理論。

【2012年6月14日公開】

ハイ・ポテンシャルズ

学生時代のお話をお聞かせください。また、現在の研究を始めたきっかけは何ですか。
学生時代は海外に行きました。1974年だから今から38年前ですね、大学を休学してヨーロッパで約9ヶ月生活していました。当時の日本は学園紛争の時代で、自分が何をすればいいのか分かりませんでした。だから海外に行って自分が通用するか試そう、視野を広めようと考えたことがきっかけです。いざロンドンに着くと、ちょうどオイルショックの直後で、ストライキが発生していました。電気さえ点いてなくて。でも何が起きているのか分からなかったんですよ。その時に、自分がいかに知識不足かを思い知りました。留学中に芽生えた問題意識から、帰国後は大学院で「日本企業の労働」について研究しようと考えました。当時は、日系企業が海外に積極投資していたため、労働・人材分野の研究をするには海外でも調査をする必要がありました。そのため、東南アジアなどに研究調査に行くようになり、現在の研究分野につながっています。
グローバルに事業を展開する日系企業の特徴は何でしょうか。
ビジネスの形態によって異なるので、一概にこうだとは言えないと思いますが、欧米系のグローバル企業と比べると大きな特徴があります。簡単に言うと、日系企業には第三国籍人がいないのです。例えば、ある日系企業がインドネシアに投資したとします。現地支社には、日本人とインドネシア人しかいません。多国籍企業とは言えませんね。二国籍企業です。アメリカ人やシンガポール人といった第三国籍人は入っていません。欧米の多国籍企業であれば、第三国籍人はたくさんいます。日系企業には、本社の方針が外資系のそれと異なるためにできないんです。
なぜ欧米系の企業には第三国籍人が存在するのですか。
以前研究の一環で米企業の本社を十数社回り、グローバル人事部門の責任者から直接話を聞いた経験から言うと、欧米系多国籍企業は、全社員の中からエリート集団「ハイ・ポテンシャルズ」というものを入社後に識別しているためです。例えば、某多国籍企業では、世界中に700~800の子会社を持ち、総社員数は25万人を超えます。そこでは、世界中の子会社の中から、入社後数年が経過した30歳前後の社員5万人の中で、特に優秀な人材を「ハイ・ポテンシャルズ」として選別します。倍率は100倍以上です。そうして選別された人材には、(1)部門変更、(2)職能変更、(3)海外勤務という3つの特別な職務を与えるのです。(1)は医療部門から金融部門へというようにビジネスを変え、(2)は営業から経理へというように役割を変え、(3)は国を変えるのです。日本で採用された場合、何年間かタイに派遣するというようにね。だから、第三国籍人が存在するのです。
なぜ日系企業にはそれができないのでしょう?
日系企業は、日本人のみを競争させて日本人のみを出世させるシステムを採用しているからです。これからはそれを改善していこうという企業も多いですが。海外支社の現地採用スタッフで、どんなに優秀な人がいても子会社でキャリアを終えています。これまで日系企業は、「ハイ・ポテンシャルズ」を選別するシステムを持っていませんでした。世界の多国籍企業のように、世界中の子会社の新入社員が全員同期という意識がないんですね。世界を見回すと、このシステムで出世したのはカルロス・ゴーン氏がいますよね。彼はフランスで教育を受けたそうですが、就職したのはブラジルの子会社です。フランスの自動車会社・ルノーは、そこでどんどん頭角を現すゴーン氏を見逃しませんでした。その彼が今は日産自動車の社長です。

インド人に知られていない日系企業

日系企業は外国人をうまく使いこなせていないのでしょうか。
私が過去に研究した、日本で採用されて海外支社に派遣された日本人に対しての、現地における評価を分析した結果を見ると、使いこなせていないと言えるでしょうね。例えば、タイに赴任した日本人に対しての、その部下に当たる現地人スタッフの評価は一様に低いです。つまり、現地人スタッフの方が赴任した本社の日本人よりもレベルが高いということです。これは大問題ですよ。先程のハイ・ポテンシャルズの話は、就職活動で企業の人事担当者が話すこととは違うと思います。「グローバル人材」を考える時に、そのハイ・ポテンシャルズを採れるだろうか、育てられるかどうかが重要です。日系企業はまず、日本の本社の人材のレベルを上げなくてはいけません。そうしなければ、日本で留学生を採用したり、海外でレベルの高い現地スタッフを採用しても、今より難しい状況になっていくでしょう。「グローバル人材」として日本や海外で外国人を採用するのはいいことです。でも問題は、採用した外国人を使いこなせるかどうかです。
海外の学生から日本と日系企業がどのように評価されているか教えてください。
私が早稲田大学留学センター所長を務めていた当時(2006~2010年)、中国からの留学生は毎年1,500人程度来ていましたが、インドからの留学生はなんと6人だけでした。そこで、インドに早稲田への留学生を募集しに行ったんです。その時に原因がわかりました。言語(日本の大学教育は日本語オンリーだと思われている)や、奨学金(入学後しか申し込めない)の問題はありますが、それ以上に大きいのは、インド人学生は日系企業に魅力を感じていないということです。インド人にとって日系企業がとても魅力的で、ぜひ就職したいと思うならば、日本語を勉強してでも日本の大学で学びたい、と考えるはずなんですよ。彼らは、日系企業をまず知らないし、さらに日系企業の中では出世が不可能だと思っています。インドだけではなく、海外の優秀な学生たちはみんな日系企業の本社では外国人が出世できない環境にあることを理解しています。そこで現在、日系企業も評価制度を変えようと必死です。これが変わったら日本人の学生にとっては大変なことになりますよ。大学卒業の段階で、世界の学生と対等に勝負できる人材になっていなければならないのですから。

井の中の蛙になるな!

今、学生がすべきことは何ですか。
世界レベルを意識しながら勉強することです。日系企業の海外支社に赴任する日本人社員のパフォーマンスを調査すると、なるべく若いうちに海外経験を積んだ人の方が高いことがわかります。若いうちに日本の弱いところに気づき、考えることが大切です。世界レベルを知らないと、日本はこのままで大丈夫と考えて努力しないで終わってしまいます。今のままで世界でも通用すると勘違いしてしまう。視野を広げれば何をすべきかはおのずとわかります。世界レベルの人材に追いつくためには、例えば語学だって滅茶苦茶に勉強する必要があるのです。日本人として、どれだけハイ・ポテンシャルズになれるかですよ。大相撲を見てください。今や横綱や大関は外国人ばかりですよね。しかし、もしモンゴルやヨーロッパから外国人力士が来ていなかったら、日本人でもっとレベルの低い力士でも横綱や大関になれてしまうということです。すごくレベルの低い世界で横綱だ、大関だって威張ることになるんですよ。企業も同じです。世界から人材を選んでくるか、日本の中の狭い範囲の同僚だけで競争するかです。世界レベルを意識するとはそういうことです。
グローバル人材を目指す学生にメッセージをお願いします。
井の中の蛙になるな!ということですね。自分は英語が上手いから海外でも通用すると思っていても、もっと能力のある人間は世界中にたくさんいるんです。若いうちに1年間くらい海外留学すると、それを肌で感じることができます。発展途上国でも優秀な人間は、常に世界レベルを意識して勉強していますから日本人とは全然違いますよ。だから世界に出てみることは非常に大切です。自分の能力、そして日本の能力を相対的に評価することができるようになりますね。そういうことを知らないで大企業に入社すると大変です。文系学生は特に名の知れた企業に入っただけで、なんとなく世界で通用しそうだと勘違いするんですよ。実際は全く通用しません。逆に技術はあるのに語学ができないために、世界で通用していないのが理工系学生です。日本人エンジニアは、語学が圧倒的に弱いです。企業の中でも大問題になっています。英語で論文を発表する技術者は少数派で、企業内のエンジニアは基本的に全く英語ができません。例えば、日本の某大企業はインド人エンジニアを雇用していますが、日本人エンジニアは彼らの話す内容や、仕様書の英語が理解できないそうです。そこで、シンガポールの子会社で翻訳してもらうそうですよ。残念な話ですね。インド人と一緒に働ければもっとイノベーションが起こるだろうに。英語ができないためにその機会が奪われています。日本人エンジニアの英語力が上がれば、日本の国力はもっと伸びますよ。理工系のグローバル人材育成こそが大きな課題です。問題点が英語力であることはわかりきっています。少し勉強すれば1年でかなりできるようになるでしょう。英語ができない日本人はもう通用しません。世界で通用するためには何をするのかを考えることです。そのためにも。いつまでもぬるま湯にいないで世界を意識しなさい、ということですね。
編集後記

衝撃的でした。私が、当初質問しようと考えていた事柄が次々と打ち砕かれていくような展開のインタビュー。これが現在の、そして世界の現実なのかと。白木教授のお話の途中あまりのショックに目の前が霞んできたくらいです。私は今就職活動中ですが、このお話を聞いてから就職活動に対する考えがガラリと変わりました。このことを知ってどう感じてどう動くかです。確かに状況は厳しいかもしれません。でも、本当に世界と勝負したいなら、本気の競争をしていかなければならない。ぬるま湯から出て、目を覚まさなければ。競争相手は、今自分の周りにいる人々ではなく世界中にいるのだから。

相原 亮(基幹理工研究科1年)