Vol. 17 「マルチな専門性を獲得すること。誰もがもう一度話したいと思うアイデア人材を目指せ」

CATEGORY : 国際機関
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世界銀行東京事務所 駐日特別代表
谷口 和繁

1977年、東京大学法学部卒業。81年、米国スタンフォード大学ビジネス・スクール、MBA取得。29年間の財務省勤務を経て、2008年3月より世界銀行駐日特別代表。国際金融では、開発金融政策、外国為替市場に携わったほか、ウルグアイ・ラウンド、日米構造協議にも参加。IMFに審議役として4年間出向。国際交渉や知的支援などの目的で50カ国以上を訪問した経験を持つ。

【2012年5月23日公開】

日本人は英会話が苦手? 違う、リーディングとライティングだって通用しない

学生時代は将来のキャリアについてどのようなイメージを持っていましたか。
将来この仕事に就きたいという具体的なイメージはありませんでしたが、世界で通用する人材になりたいということは常々思っていました。大きな仕事をして、それによって世の中をよくしたいと思っていましたね。世の中が変わっていくプロセスの中で、貢献したいというイメージを持っていました。大学卒業後、そんな風にダイナミックに社会に貢献できる舞台と信じて当時の大蔵省に入省しました。財政や金融に対してはある意味、社会を変えることのできる道具として興味を持っていましたが、本来の目的としては大きな社会の仕組みづくりとか、新しいことをやってみたいと漠然と考えていましたね。
世界で通用する人材になりたいと思ったきっかけは何ですか。
学生時代は、受験英語でもそれなりに通用すると思っていた時期もありましたが、英語のラジオ・ニュース・チャンネルも聞き取れなかったんです。まして会話はできません。これでは世界で通用しないと思いました。法学部でしたので、法律の勉強もがんばってはいましたが、それに加えて一生懸命英語の勉強にも取り組みました。夜間の英会話学校に毎日3時間通っていた時期もあります。しかし、実際は、英会話だけでなく、リーディングもライティングもできないことがわかりました。日本人は英語の読み書きはできても話せないとよく言いますが、そうではないんです。読むことも書くことも業務をこなせるレベルではないんですよ。しかし、ライティングは訓練すればスピーキングよりも早く上達します。私の場合、書く力はアメリカのビジネス・スクールに留学していたときに鍛えられました。そのとき現地学生も受けることができる学生向けのライティングのプログラムを受けました。現地の学生よりも書くのに時間はかかってしまいますが、相手にわかりやすく論理的に書くことを念頭において書く訓練を続けましたら、最後はネイティブよりもよい点数が取れました。

来る仕事は拒まず、の精神でどんな仕事にも前向きに立ち向かう

お仕事をする上で大切にしていることはありますか。
来る仕事は拒まず、という自分のポリシーを大切にしています。なぜかというと、どんな仕事を受けたとしても、後々さまざまな場所で必ず役に立つからです。財務省で始めて課長補佐となったときに世界銀行の担当でしたが、その最初の仕事が世界銀行総裁の報酬を審査することでした。世界に一つしかないポストの報酬を審査するというスキルが、後の仕事に役立つのか、と疑問に感じたこともありました。ところが、次の仕事がたまたま銀行局で日本銀行総裁の報酬を審査する仕事だったのです。またも世界に一つしかないポストです。前回の経験が役に立ちましたが、前にもっとやっておけば良かったとも思いました。これは、自分の経歴を振り返って気づいたことですが、一生懸命にやった仕事、自分が真剣に携わった仕事は必ず人生のある部分で繋がります。与えられた仕事に対して、つまらないなぁとか、自分にとって何のメリットがあるのかなぁとか、そのように思うときは必ずきます。でも、不思議なことに、一生懸命にやっておくと必ず後々自分の役に立つんですよね。
国際的な場で交渉をされるときはどのようなことを心がけていますか。
交渉するときは、最後はイエスかノーの話になってきますが、そのときに反対する人たちがどうして反対するのか、何に困っているのか、ということをよく理解することが大事だと思います。話し合っても必ずしも本当に不満な点を教えてくれるわけではないので、相手のバックグラウンド、つまり国なら歴史や政治、経済を勉強する必要があります。そして、反対している人たちが受け入れられやすい論理を一緒に作り上げて行くんですね。最終的な段階に来ると、お互いにこれをやると得をする、これは損をするというようなことがゼロ・サムのように見えてきます。そういうときに、実は相手にとってマイナスではなく、どのような利点があるのかを説明して納得してもらうことが大事です。交渉している同士というのは面白くて、お互いが何を考えているのかわかるわけですよ。だから交渉が長い場合は、交渉している人同士は仲良くなるのですが、お互いの立場があるために、なかなかうまく交渉がまとまらないときがあります。そういう場合は、どのような論理が相手の後で妥協を妨げている勢力を和らげ、説得できるかを考え、相手が納得しやすい論理を作っていきます。

目指すべきは、幅広い専門性を持つオールラウンダー

将来グローバルに活躍するためには何が大事だとお考えですか。

講演する谷口さん

世界的に活躍している人を見ると、相手を感動させられる何かを持っていることです。グローバル人材として、どういう人を目指すかというと、重要なのは、何か課題を抱えている人が相談したいと思う人、壁にぶつかっているときに何らかのアイデアやインスピレーション、示唆を与えることのできる人材だと思います。アイデア人材、とでも言いましょうか。そのような人材を目指すうえで、少なくとも自分の専門についてはより深く勉強するのが当たり前です。さらにさまざまな人と会い、その考え方から多くを学ぶことや現場に出向くことが大切です。そういう機会を貪欲に探していって、自分の引き出しをどんどん増やしていけるとおもしろいですよね。自分が憧れる存在、将来同じように国際的に働きたいと思える人を見つけることも大事だと思います。そういう人がいると勉強の励みにもなりますよね。
専門性を磨く上で大切なことは何ですか。
国際的な社会は一種のプロ野球のような組織。プロ野球でも単に運動神経がよいから採るというわけにはいきませんよね。チームの戦略をもって選手を採用しているはずなので、ピッチャーが欲しいチームに足の速い外野手が応募してもチームのニーズにマッチしません。ですが、足の速い外野手は必ずどこかで必要です。そういう意味で、「私はこういうことができます」、「私が貢献できることはこれです」というものを一つ持っていると活躍できる舞台はどこかに必ずあります。だから、自分の専門性を狭めて追求していくというやり方もありますが、世の中は変わりますので、ファーストもできるしセカンドもできるというように、少し応用力を持った方が本当はよいと思います。一つひとつ自分の専門性を作ったうえで、それを広げていく必要があります。なぜなら自分一人では仕事はできないんですよ。一人で完結するという仕事はありえません。世界銀行の場合も大きなプランを作るためには、他のセクターの専門家と話ができること、相手の専門も理解できることがとても重要なのです。
どのような日本人学生が世界銀行に就職することを望みますか。
日本という立場から途上国を見てチャリティーに近い発想を持つ人よりも、むしろ成長を遂げている途上国の人々と協力することでチャンスを広げていける人がいいですね。現在、成長しているのは先進国ではなく途上国です。日本で生活していたら、入り口として貧しい人を助けてあげたいという気持ちで国際機関に入ってくるのは理解できます。しかし、パートナーだという意識を持って、この世界に飛び込んでほしいです。途上国での持続的成長チャンスは世界の持続的成長のチャンスです。支援することで世界中がよくなるという発想ですね。情けは人のためならず、と言いますが、相手だけでなく自分のためでもある、ということです。国際援助というのは、結局世界中のためになるし、自分のためになるんです。マルチな専門性で、問題の解決に対して幅広い視点から考えられる、そういう専門家を期待しています。
学生に向けてメッセージをお願いします
たとえその瞬間はつまらない仕事だと思っても一生懸命やっておくことです。スティーブ・ジョブズが言っている有名なセリフで、「ドット(点)を繋げ」というのがあります。点というのは自分がしてきたいろいろなことで、それを繋いでいくということです。前にやった仕事の価値があとから出てきて、それが後になって分かるというような意味です。やる前にそのことが将来どのドットに繋がるかあらかじめわかっているわけではありません。しかし、そのドットをしっかりやれば、あのときのドットが今の自分がやっているこのドットと繋がって、新しい大きい仕事ができるということになります。一個一個のドットを大事にして、一生懸命にやればあとから太く繋がるんですよ。一生懸命やらないと、ドットが消えかかって、いつまでも網にはならずにドットが一個しかない状態のままです。そういう意味では、自分があまりやりたくないことにこそ、チャンスは広がっているのかもしれませんね。
編集後記

一生懸命やったことは必ずどこかで繋がる。学生の立場から見て、これは勉強にも言えることだと思いました。何の役に立つかわからないと思って勉強していたことが、あとになってふとしたことから、やっておいてよかったと思えた経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。そして、谷口さんが伝えたかったのは、目の前のことを一つひとつ一生懸命やることが大事だということだと思います。私も「自分にはこれができる!」と胸を張って言えるように、将来太く繋がるようなドットを増やしていきたいです。

陸 欣(国際教養学部4年)