Vol. 1 「グローバルな問題に関心を持つことは、大学生の社会的責任である」

CATEGORY : 大学
Hata-sensei

早稲田大学社会科学総合学術院教授
国際コミュニティセンター長
畑 惠子

専攻はラテンアメリカ政治史。津田塾大学卒、上智大学大学院修士課程修了。筑波大学ラテンアメリカプロジェクト準研究員、上智大学助手、中部大学国際関係学部助教授を経て、1993年早稲田大学社会科学部助教授。1995年同教授。2008年11月から国際コミュニティセンター長。メキシコ国立自治大学留学(1980-81)、メキシコ大学院大学客員研究員(2002-04)。

【2011年9月22日公開】

全員に共通の言語を自然に選ぶ

国際的な環境で、印象に残っている出来事をお聞かせください。
メキシコ大学院大学で在外研究をしていた頃の話です。当時私は、様々な国から集まった人々とともにゲストハウスで共同生活をしていました。そこで印象的だったことが、「全員に共通の言語を自然に選ぶ」ということです。日本人同士で会話をしている中にアメリカ人が入ってきたら、言語を日本語から英語に普通に変えるという具合ですね。特にヨーロッパ出身の人々は多言語ですから、フランス人とドイツ人がフランス語で会話をする中に、私が入ると言語がスペイン語に変わり、さらにインド人が入ると今度は英語に変わる、ということもありました。全員が会話の輪に入れるように自然にできるのは素晴らしいことだと思います。
そうした環境で困ったことや違和感を覚えたことはありましたか。
日本人の中に、国際的な環境でも、自分たちがマジョリティであれば日本語で通してしまう人がいたことです。当時招聘講師として滞在していた、ある日本人の教員は、私が他の国の方と会話をしていてもいつも日本語で話しかけてくるので、とても違和感を覚えました。同じ国の人に日本語で話しかけるのは当然かもしれませんが、日本語を理解しない人がいる集団の中ではやはり良くないことだと思います。各国から集まる人々の中には、共通にコミュニケーションできる言語を自然に選ぶ雰囲気があることが私には衝撃的でしたし、共通の言語がある場合はそれを探す努力をするということが重要ではないか、と感じましたね。

大学教育を受けた人間の社会的責任

「グローバル人材」に必要な能力や資質はどういうものだと思われますか。
最近CSR(企業の社会的責任)がよく言われますが、私は「大学教育を受けた人間が負うべき社会的責任」というものもあると思っています。日本では大学教育が当たり前になっていますが、世界的に見た場合は大学教育を受ける人間はそれほど多くありません。そう考えると、大学で国際的な問題について様々な角度から学び、広い視野から考える機会に恵まれている人間は、グローバルに活躍する能力・資質を備えているはずであり、グローバル社会に対してある種の責任を持っているのではないでしょうか。自分にとって身近でない問題でも、日常的に興味関心を持っておく。そして機会があれば主体的に働きかける。今の大学生には自分のことで精一杯という感じの人も多いので、もう少し社会に関心を持ってもよいのでは、と思いますね。
早大生は大学をどのように活用するべきでしょうか。
やはりまず挙げられるのは国際コミュニティセンター(ICC)ですね。インターナショナル・スチューデントとローカル・スチューデントが時間を共有して相互理解を深めるというのは素晴らしいことだと思います。ただ、今はまだ異文化交流が特別なものという感じです。もう少し自然に留学生がサークルや課外活動に参加し、自然に共通の言語で話すことを選べるようなキャンパスになればよいですね。また興味関心を広げるという意味では、通常の講義やゼミなどあらゆるところにチャンスがあります。単位が必要だから講義に出るのではなく、幅広く知識を吸収できる機会と捉えて様々なことに関心を持って欲しいですね。せっかく努力して早稲田大学に入ったのですから、そこで勉強する機会を得たことの幸運を感じてもらえれば、と思います。

ラテンアメリカに興味を持たなくなった早大生

最近の若者は「内向き志向」と呼ばれています。長年早稲田大学で教鞭をとっておられる先生から見て、学生に変化はありますか。
私の専門はラテンアメリカ地域研究ですが、肌で感じることは、学生さんたちがラテンアメリカに興味を持たなくなった、ということですね。日本との経済的な関係や食糧・資源問題を考えると、もう少し注目されるべき地域だと思います。しかし実際には、他地域への関心よりも、経営学を中心に、企業に入ってから役に立つことを学びたいという人が多く、ますます増えているように感じます。大学は企業人を育てる機関ではないと考えています。ですから、学生さんたちがあまりに就職を意識した選択に偏るのは残念です。大学時代に社会に出てからではできないことをして、経験の幅を広げる、というバイタリティが失われているように思います。アルバイトにしても、何かやりたいことのためにお金を稼ぐのではなく、将来就職の役に立つからという理由でアルバイト自体が目的化して一生懸命やっていたりする。それでは本末転倒のような気がします。
学生は学生時代に何を経験するべきでしょうか。
学生時代にしかできないこと、に尽きると思います。時間があって様々なことができるのは学生時代だけです。それを就職の予備期間みたいに使うのはもったいないことです。やりたいことが見つからなければ、何でも手当たり次第にやってみることが大事です。受験の疲れからか、とくに大学一年目が脱力的というか、目標をなくして何もせず過ごしている人たちが少なからずいるように見えます。そこを上手に活用できれば、その後の学生生活も上手くいくと思います。海外に出ることだけが全てではなく、サークルなど他人とつながれるような活動に参加することも大事ですね。
畑先生が今大学生だとしたら、何をしたいと思いますか。
私が大学生だった頃は、今のように海外旅行が容易ではありませんでした。だからこそ、もう少し早い段階で様々な国を実際に見てみたいと思いますね。またボランティアなども、今は様々な機会があるので挑戦してみたいです。また、私自身がラテンアメリカに興味を持ったのも、本との出会いがきっかけなのですよ。だから本はたくさん読みたいし、今の学生にも読んでもらいたいですね。思わぬ出会いがあると思います。

メキシコ在外研究時代

  • メキシコ大学院大学

    メキシコ大学院大学の全景。1940年設立

  • クリスマスパーティ

    大学でのクリスマスパーティ

  • ホームパーティ

    教員宅で、研究者たちとパーティ

編集後記

早稲田大学で学ぶということ。世界的に見たらそれは特別エリートな人材を意味することではないが、大学教育を受けられた幸運な人間である。そして様々な国際的な問題を学び、知っている人間だからこそ興味関心を持ち続け、機会が訪れれば働きかけていく。それが大学生の社会的責任であり、「グローバル人材」の資質である。大学教育を受けている時点で世界的に見たら「グローバル人材」であり得る、という新たな視点を得ることができました。また、確かに最近の学生は同じようなアルバイトに必死になり、同じような研究テーマに集中するという側面があると思います。もっと将来に全然関係なくても「好きなことをやる!」という自由な空気があってもいいのではないか、と感じました。

二瓶 篤(政治経済学部5年)