Vol. 16 「人生は一本道じゃなくていい。体力・ネットワーキング能力・コミュニケーション能力を培って国際舞台へ」

CATEGORY : 国際機関
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国連環境計画(UNEP) ナイロビ事務所
大賀 敏子

東京都生まれ。1983年一橋大学卒、環境庁に勤務後、国連環境計画(UNEP)の環境計画官(ナイロビ)、JICA専門家・タンザニア政府環境政策アドバイザー、ESCAP環境管理専門家(バンコク)を経て1999年より再びUNEPナイロビ勤務(事務局長室管理理事会渉外官・職員組合副委員長)。著書に『心にしみるケニア』(岩波新書)があるほか、季刊『ニューエネルギー』(都市エネルギー協会)など雑誌記事への寄稿多数。ソフトバンク新書から『日本人の知らない環境問題―「地球にやさしい」では世界は救えない』本年5月15日刊行予定。

【2012年5月18日公開】

国連とは、コミュニケーションとネゴシエーションとロビイングを合わせた塊

国連での仕事内容を教えてください。
UNEPは、環境に関する世界各国の活動の総合的な調整をし、また新たな問題に対しての国際的な協力を推進しています。私の仕事は、UNEPで決議されたことを実行するために世界中の環境大臣と話し合い、調整をすること。また、UNEP内に常駐している各国の代表ともやり取りをしています。言わば、「国家間の調整窓口」ですね。よく国連を世界政府のようなものだと勘違いしている人がいますが、国連というのは「場」なんです。意見の調整の場を提供しているだけに過ぎません。世界中の人が集まり、何かを決め、きちんとその方向に持っていくために、各国間の調整役として国連職員というのはいるのです。
国連職員になるまでの道のりを教えてください。

UNEPでの大賀さん

大学を卒業して環境庁に入省しました。国際機関で働きたいなと思いながらも、どうやったらそういうところで働けるのかわからなかったので、とりあえず国家公務員になったわけです。5年半環境庁で働いた後、JPO(Junior Professional Officer)派遣制度でUNEPへ行きました。JPOとは、自国の若手職員を国際機関に送り込むために、外務省が費用を負担して、世界にある国連の部署へ2、3年派遣する制度です。UNEPへの派遣期間が終了した後、環境庁の席は残したまま、今度はJICAの仕事でタンザニアとタイへ行きました。その後直接UNEPからオファーが来た際、ケニアはとても住みやすくて気に入っていたこともあり、環境庁を退職し、国連の正規職員として戻ろうと決意しました。
国連で働いていて難しいことは何ですか?
国連に入る時に、どこの国にも偏らない、中立の立場を取って行動することを誓わなければなりません。しかし、それって実際は非常に難しいことなんです。国連職員の役目は各国の調整をすることと言いましたが、政府間の調整は、表舞台でのみ行われるわけではない。例えば、A国が自分の政策をUNEPにさせたいとなると、まずはUNEP事務局職員に取り入って、中からもその政策が通るように動く。このようにコミュニケーションとネゴシエーションとロビイングを合わせた塊が、国連なんです。ちなみに、日本は政策を通したい時も、日本人らしい生真面目さでやることが多いですよ。

価値観が異なる人と出くわして大変な時には「こういう人もいるんだ」と思えばいい

オランダ人や日本人にとってのスラムと、ケニア人にとってのスラム

赤道直下のケニア

国連で働く動機として、「世界の貧困を撲滅したい」だとか「世界の福祉の向上を願って・・・」というのは一般的によく聞かれる優等生的な答えですよね。私自身も、小さな貢献しかできないかもしれないけど、世界のために働きたいという想いでやっています。しかし、ケニア人の同僚に国連勤務の志望動機を聞くと、「お金のためさ!」と堂々と答える人がいる。もうびっくりしました。去年、うちのオフィスにオランダ人のインターンが来て、インターンシップの最後に「スラムへ行って、貧困の中でもたくましく生活している人をこの目で見たいから連れていってくれ」と言ったんです。私は、すごくいいことだと思いましたよ。もちろん、スラムやそこに住んでいる人は見せ物ではない。それでもオランダや日本に住んでいると、貧困というものがやはりよくわからないですからね。すると、ケニア人の同僚は「とんでもない!あんなところはわざわざ行くような場所じゃない!」って言う。彼らケニア人エリート達は、スラムに住むような人達は別世界の人間だと思っているんです。そのオランダ人や、日本人の私とは感覚が全く違う。同僚のみんながみんな、「よい世界にするために働きたい!」と思っているわけではない。国際的な場で働くこととは、価値観や考え方が違う人がたくさんいるということ。それでもそういう時は「ああ、こういう人もいるんだな」って思えばいいんです。
感情を押さえて冷静に判断、分析する訓練を
みんながお互いに友好な関係を保とうと思っているわけではない。自分の主張を通そうという時に、ガーっと闘いを挑むかのようにアプローチをしてくる人もいる。例えば、各国に流さないといけない文書をA国に頼まれて流したところ、「なに間違ったことやっているんだ?!」とB国からお怒りの電話を受けました。ガーガー怒鳴って、罵倒するわけですね。それで、お互いのやり取りを遡ると、最初にB国がA国に情報を送った時点でB国に誤りがあった。そうやって自分の意見を通す時に、怒鳴り散らし、まくし立ててくる人って世の中にはいるんですよ。人間ですから怒鳴られると腹が立つ。それでも、抑えて、聴いて、相手が本当に言いたいことは何だろうとシンプルに考えるんです。その時は、「要するにまた直せばいいんでしょ?」となりました。咄嗟に反応せずに、分析してから行動に移す。これは訓練です。
日本人の強み
先ほどのような人がいるかと思いきや、本当に真面目な人もいます。日本人はまさにその例です。国連っていうのは、専門知識が豊富な人たちが大勢いるから、会議の度に15cmほどの分厚い資料を配布する。それを読んでこない国の代表もいっぱいいるのに、日本の出席者は隅々まで読んできます。意識しなくても、持ち合わせている日本人の真面目さはグローバルな場でも信頼を得る大きな強みだと思っています。

人生は一本道じゃなくていい

グローバル人材に必要な資質とは何だとお考えですか?
三つあります。一つ目は、ずばり体力です。グローバルに働くということは、時には時差との勝負です。私のボスなんて、1年の3分の2は海外出張ですよ。そして、1年の半分は機中泊です。12時間の時差があるようなところへ飛んでいって、飛行機を降りたらお迎えの車が待っていて、すぐ会場へ連れて行かれて、疲れた顔もせずにそこでスピーチをしたり、各国のお偉方と必要な事柄を話し合ったりして、結論をまとめる。まあ、それは事務局長クラスの話ですが。
次にネットワーキング能力。フォーマルとインフォーマルの両方で友達を作れることは大切です。ネットワークって何かというと、ずっと親しげである必要もないし、愛し合っている必要もないですが(笑)、必要な時に頼んだら情報をくれるなど、そういう関係を作れることですね。
そして、最後にコミュニケーション能力です。自分を的確にわかりやすく表現できること。日本人にとって、英語はハンディー。私も最初は全然わからなかったです。しかし、国連の仕事で使う英語の単語は、そんなに多くない。だから、練習さえすればすぐ慣れます。過度に心配する必要はない。もっと言えば、日本人は英語がだめだと思っている人がいっぱいいますけど、世界には英語がだめな人はもっといっぱいいるんです。コミュニケーション能力というのは話すことだけではない。相手の話を聴くことも入ります。怒鳴り込んでくる人の話も静かに聴き、お金のために国連で働くと言う人の話も聴く。そういうことができる人っていうのは、どこでも通用すると思います。
最後に、国際機関で働きたいと思っている学生にメッセージをお願いします。

人生は一本道じゃなくていい。UNEPを見渡してみても、それぞれ色々好きなことをして国連に流れついた人、NGOなどで活動してきた人、30歳や40歳まで民間企業に勤め、自分の人生これでいいのかな?と思い、国連へ来た人など実に様々です。だから、最初から国連っていう考えをする必要はないと思います。大学の時には、自分の興味があることをする。例えば、外国に行くスタディツアーなどが提供されているのなら、ぜひ利用するべき。見聞が広められるでしょう。今の時代の日本の学生はすごく恵まれています。このようなWebマガジンを通して、海外で働いている人からアドバイスを得ることもできる。学生時代にスタディツアーと言って海外へ簡単に行くこともできる。私の時代にはそういうのはありませんでした。ですので、学生のみなさんには与えられた機会をぜひ自らつかみ取って、見聞を広め、知識を深め、自分の世界を大きく、豊かにしてほしいです。人生は一本道じゃなくていいから。
編集後記

途上国の生活向上や、世界各地の紛争や環境問題の解決に取り組む、まさにワールドワイドな組織である国連に憧れを抱くことも私はしばしばあります。しかし組織がとても大きいので、各団体でそれぞれのスタッフがどういった思いでどういう仕事をしているのだろうと思っていました。今回はそれに合わせ、お仕事の裏話も聞くことができ、とても勉強になりました。海外の第一線で今現在活躍されている大賀さんだからこそ、日本人の特徴と強みを客観的に見ることができるのではないでしょうか。また、自分の価値観とは全く異なる人でさえも受け入れる力を持つことが、グローバルに活躍する人の素質にもつながるし、自分の人生も豊かにしていくものだなと思いました。

斉藤 愛里(教育学部4年)