Vol. 19 「恵まれた状況にある者こそが果敢にリスクをとり、社会に還元していくべき。自分たちが社会を変えるという気概を持ってほしい」

CATEGORY : 民間企業
iwase-san

ライフネット生命保険株式会社
代表取締役副社長
岩瀬 大輔

1976年埼玉県に生まれ、幼少期をイギリスで過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパンを経て、ハーバード経営大学院に留学。同校を上位5%の成績で卒業(ベイカー・スカラー)。2006年、ライフネット生命保険の設立に参画。2009年2月より現職。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。

【2012年8月8日公開】

人に疑問を持たれても、自分らしいと思える道を選んだ。自分自身を知ることは、より良く生きるためにとても重要

どのような学生生活を送っていましたか。また、学生時代からグローバルに活躍することを意識されていましたか?
  法学部で、1年生の時から司法試験の勉強をしていました。それと、塾講師のアルバイト、サークル(ジャズ研)でピアノを弾いていたというこの3つが、大学時代に主にやっていたことです。僕は帰国子女で、小学生の時はイギリスに住んでいました。中学2年の時には、住んでいた千葉の佐倉市が主催したスピーチコンテストで優勝して、オランダに1週間連れて行ってもらいました。高校生の時、親がニューヨークに転勤になり、僕は日本に残って高田馬場の寮で3年間住んだのですが、夏休みなどにはよくニューヨークに行きました。大学生の時、海外には旅行で行くぐらいでしたが、大学4年になる前の春休みに、日本弁護士連合会でアメリカの司法制度視察があって、同級生(ヒューマン・ライツウォッチ東京代表の土井香苗氏)と共にアメリカに連れて行ってもらい、ハーバード・ロースクールの学生と交流したりしました。そのような経験から、海外の影響は受けていたし、意識もしていましたね。
大学卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)に就職することになった経緯を教えてください。
  大学3年次に司法試験の3つの試験のうち、2つが終わりました。3つ目の口述試験は合格率90%ぐらいなので、その時点で試験はほとんど終わっていたと言えます。そのためほとんど就活はしなかったのですが、無数に届く会社案内の中で、BCGから来た封書だけが手書きだったので、たまたま開けてみました。その内容がおもしろそうだったので、とりあえずインターンだけ受けてみることにしたんですね。それでも就職する気持ちはなかったのですが、インターンで経験させてもらった仕事が新鮮でとても楽しかったし、BCGの人たちはおもしろくてスマート。こういう人たちと一緒に仕事がしたいという気持ちが出てきました。逆に弁護士事務所の人に会った時は、あまり魅力を感じませんでした。
  また、司法試験合格者は当時一年間に750人もいて、そのなかの1人となって埋もれたくないと思ったことも大きいです。当時BCGは就職先として全然人気がない会社で、例えば、東大法学部の人はおそらく半分ぐらいは知らない。さらに同期入社はたったの3人ということで、周りからはせっかく司法試験に合格したのに、どうしてそんな会社に行くのかとよく聞かれました。でも僕は、司法試験合格者750人のうちの1人でいるより、BCG新卒入社3人のうちの1人でいるほうが自分らしいと思ったんですね。
人と違っていても、自分らしいことがやりたいと思うきっかけはありましたか?
  子供の頃は、みんなと同じじゃないといやだったことを覚えています。例えば、母親がうっかりしていて小学校で使う画板が人と違うものになった時、それがいやで泣いたこともあったし、イギリス在住時、遠足のお弁当におにぎりを持っていったら、サンドイッチを食べていた周りから馬鹿にされ、今度からサンドイッチにしてほしいと母親に頼んだ記憶があります。ただ、イギリスで暮らしていると、外国人である僕はどうしたってみんなとまったく同じではいられない。そのうちにみんなと違っていることが普通になっていき、今ではむしろ人と違っていたいと思っています。子供の頃の体験や感じたことというのは、自分の価値観、世界観に大きな影響を与えるものですね。
  そういった価値観や原体験を含め、自分自身を知ることは実はとても重要です。例えば、ハーバード・ビジネススクール(以下、HBS)のリーダーシップのクラスも、自分の半生を振り返ることから入ります。僕らは本を読んだりして自分の外のことについてはよく知っているかもしれませんが、案外自分自身のことを知らないものです。当時は意識していませんでしたが、留学中に書いていたブログは、ある種の自分探しみたいなものだったのではないかと今では思っています。子供の頃の話を思い出して書いたりして、すごく内省的な時間が多かったですね。そういう時間をとって自分自身をよく知ることは、リーダーシップのトレーニングとしても、仕事以外のことも含めてよりよく生きるためにも、すごく重要なことだと思います。

たまたま恵まれたのだから果敢にリスクをとるべき

岩瀬さんは社会人2年目でBCGを辞めてベンチャー企業へ行くことになるのですが、その時の経緯を教えて下さい。
  僕がBCGを辞めた2000年はベンチャーブームの時でした。また、ベンチャー企業に移った会社の先輩がいて、その選択をみんな最初はいぶかっていたのですが、結果的にその先輩が成功されたんですね。そういう例を身近に見て、ベンチャーはおもしろいと思い始めました。それから、アメリカ生まれのベンチャー企業の日本法人で先輩の手伝いをすることになったのがきっかけです。
後にHBSを修了したときに、起業という道を選ばれたわけですが、その時の心境を教えていただけますか?

HBS卒業式の様子

  HBSの2年間の教育で、アントレプレナーシップ(起業家精神・起業家活動)にも、全くのゼロから小さなビジネスを起こすことから、大企業のリソースを使って新しいものを作るといったものまで色々な形があると知り、幅広い意味で何かベンチャー的なものをやりたいと思うようになりました。早大生でベンチャーをやろうとしている人はあまりいないと思うし、おそらくハーバード大学の学部生でもそんなに多くはいませんが、HBSではそう思わされる雰囲気があります。アメリカではHBSなどトップ層の学生にはエリート意識があるんです。それは、彼らが積極的にリスクをとって道を切り拓き、そこで得られた成果を社会に還元するということを意味しています。ノブレス・オブリージュということです。日本ではエリートであると意識すること自体がまず避けられますよね。でも、たまたま恵まれたのだから果敢にリスクをとるべきだと僕は思いましたし、早稲田の人にもそう思ってほしい。ここにいるみなさんは早稲田大学卒業というブランドですごく守られると思います。そんなみなさんがリスクをとっていくべきですよ。でなければ誰が挑戦するんですか? 日本ではエリート層のチャレンジ精神が少ないと思います。
岩瀬さんは今までにいわゆるエリートと言われる経験を積み重ねて、その結果として成功されたように感じますが、まだ具体的に何をやりたいかわからないけれど、将来リスクをとって、ベンチャーをやりたいという人はどうすればよいと思いますか?
  ベンチャーをやりたいと思うなら、実際にベンチャーに入るか、少なくとも小さい規模の会社に行くべきです。当たり前ですが、ベンチャーに近い環境で経験を積むべきだと思います。僕自身についてもすごい経歴だと言われだしたのはつい最近のことで、起業という道がうまくいきだして、初めて周りから認められたんです。以前はむしろ、「司法試験に受かったのにコンサルティングファームに行った変わった人」でした。しかも、そこもすぐに辞めてベンチャーに行って、そこでも最初はうまくいかなかった。その次はさらに職種を変えてファンドに行った。当時、ファンドは全然知られていませんでした。BCGの先輩からも、岩瀬はなかなかできる奴なのにコロコロ仕事を変えてもったいないと言われていました。それが最近になって、コンサルティングファーム、ベンチャー企業、ファンドが流行ってきただけのことです。
  当時、僕自身もすごい経歴をたどっているとは思わず、ただみんなが行かない道を選んでいました。例えば今も、何で生命保険なんかやっているの? もっと大きいこと、もっと楽しいことをやればいいのに、などと言われます。でも、僕はこういう風にみんなが言うからこそ、生保がおもしろいと思っているし、金融の中のプラットフォームとしての重要性、人々の生活に与える影響の大きさ、競争が少ない点など多くの点ですごく良い業界だと思います。このように、人と違う風に感じることが重要だと思います。みんながあこがれる道とは全然違う、むしろなぜ? と思われながらも、自分らしいことをやってきた。その結果として今があるんです。華やかなエリートの道をたどってきた積み重ねで、ここまできたわけではないんですよ。
リスクをとって常に挑戦されてきた岩瀬さんですが、将来のビジョン・目標を持って、キャリアを選択されていますか?
  「将来のことは本当に分からない」と思っています。例えば、10年前に今のようになるとは夢にも思っていませんでした。これから10年後のことも全然分からないし、また予想が当たったらすごくつまらないことだと思います。10年前のちっぽけな世界観では思いつけない、想像もできないようなことをやりたいと思いますね。でも、最近ひとつ目標ができて、「60歳になったときに元気な若者を捕まえて、荒唐無稽なベンチャーをやれたらおもしろいな」と思っています。
  社会人生活については、終わりよければ全て良しだと思っています。自分の父親が会社を退職する前の最後の仕事をすごく楽しんでいて、それを見ていて、僕もうれしかったんですよね。父親とライフネット生命社長の出口(58歳にしてライフネット生命保険の前身であるネットライフ企画株式会社を創業)を見て、今(若いうち)よりも、どうやって後ろ(キャリア後半)を上げていくかが重要と思うようになりました。だから、今は力をためる時だと思います。ただ、あっという間に36歳になってしまったので、毎日必死に生きていくということは意識していますね。

日本で通用することなら海外でも通用する

留学当初、HBS修了後はアメリカで働くつもりで、またHBSで優秀な成績を残したのに、なぜ日本に戻ってこられたのですか?

大学院にて講義をする岩瀬さん

  ビジネスに関していえば、アメリカも日本もヨーロッパもあまり変わらないと分かったからです。例えば、日本のトップ5%とアメリカのトップ5%の企業のビジネス・レベルはほとんど変わらないと思います。日本で通用することなら海外でも通用します。例えば、グローバルな会議でも難しいことやすごいことを言う必要はないんです。学生の皆さんも著名な経済系のブログ等を読んでいると思いますが、内容的にはそこで議論されていることをちゃんと自分で咀嚼して話すことができれば大丈夫です。
  また、HBSの仲間に、今とても熱いマーケットであるアジアに帰らないのは、ローカルな強みがあるのにもったいないと言われたことや、日本で成功できないならアメリカでも成功することは無理だろうという考えもありましたね。アメリカと比べると日本は競争が少ない点も良いと思います。例えば、ベイカースカラー(HBSをトップ5%以内の成績で修了した人に与えられる称号)は毎年45人排出されます。30年経つと1,000人以上のベイカースカラーが誕生するわけです。実際、アメリカの一部の投資銀行などでは社員がベイカースカラーばかりということもあり、それほど存在価値が際立たないんです。また、大人になってからの海外生活は初めてで、常に自己主張し続けないといけないカルチャーには少し疲れました。日本の方が食べ物もおいしいし、自分にとって居心地がよかったですね。
日本のトップ企業もアメリカのトップ企業も同じであるとしても、日本経済の状況は悪くなっているように思うのですが、どのようにお考えですか?
  平均では確かに落ちています。例えば、GDPの成長率や世界の企業の株式時価総額の上位に日本企業はあまり名を連ねていないという点、新聞等で盛んに日本経済に関して悲観的なことが報じられている点は事実です。しかし、平均で見ることにあまり意味はなく、むしろ過ちを起こしやすいと思います。マクロじゃなくてミクロで見るべきともいえます。例えば、最近の学生のことをとってみても、内向きだとか言われていますが、僕が学生の頃は、学生で名刺を持っている人はいなかったし、社会起業家やベンチャーをやっている人なんかいませんでした。この「グローバル人材プロジェクト」のように社会人を呼んで勉強をするなどという機会もなかったです。
  ただし、学生のなかで、意識の高い人とそうでない人の二極化が進んでいることは事実だと思います。それと同じで、日本企業にもだめな企業とすぐれた企業があります。ある企業は大きな損失を出していますが、利益を出している企業もたくさんある。みなさんは伸びている会社に行けばよく、マクロの心配をする必要はないんです。そこで自分たちの周りをよくしていくことが重要です。また、新聞などでは書き手の意見・主観が如実に表れ、事実が実際と異なるニュアンスで伝えられてしまうこともあります。自分の手足で情報を調べ、自分の頭で考えることが非常に重要で、メディアの情報に踊らされて安易に日本がだめだと思ってしまってはだめですよ。

皆さんこそが社会を変えるんだという気概をもってほしい。今は世界を意識しないわけにはいかない

岩瀬さんのご経験から、グローバルに活躍するために特に学生時代にやっておけば良いと思われることはありますか?

シンガポールのITカンファレンスにて

  まず、英語を勉強することは重要です。社会人になってからでももちろんいろんなことにチャレンジはできますが、まとまった時間をとるのが難しいので、学生時代は特に多くの時間を必要とすることをやるべきだと思います。その最たるものが語学です。ただ、流暢、いわゆるペラペラにならなくても大丈夫です。例えば、会議に行って、中国人、韓国人、インドネシア人、タイ人、ドイツ人、ブラジル人と、下手な英語でも良いから、言いたいことを言えるか。アメリカ人と同等でなければいけないと思うとハードルが高いと感じるかもしれないけれど、下手な英語でよいと思えば、そんなにつらくはないはずです。また、実際仕事をするようになればいつも同じようなことを話すので、使う語彙や言い回しなども絞られてきます。他にも、国際的なコミュニケーションの”お作法”を知っているということも大事です。例えば、男性だったら、へなっとした弱々しい握手はだめで、目を見てぎゅっと力を込めて握手する。まずはそこから始まります。これを学ぶには場数を踏むしかないです。コミュニケーションに関するお作法、メールの書き方や会議で別れる時の挨拶などをちゃんと習得すれば、世界は遠くないと今は感じています。
  そのような作法を前提として、何より重要なのがコンテンツとメッセージです。コンテンツはボキャブラリーを圧倒します。要は、自分が伝えたいことがあるかということです。僕ら日本人は学校などであまり意見を求められてこなかったと思いますが、欧米の人はいちいち反論してきます。世界で起こっていることを理解し、自分なりの意見をきちんと伝えられるようになることです。自分の意見を持っておくことは、グローバルに活躍するためには必須です。
世界を舞台に活躍したい学生に向けて最後にメッセージをお願いします。
  皆さんこそ、自分たちが社会を変えるんだという気概をもってほしい。今は世界を意識しないわけにはいかない時代です。学生時代に留学したり、海外の人たちと積極的に会うのもよいと思いますし、一生懸命勉強するということも大事です。活躍している人は、みんなとても勉強しています。例えば、今世界で起きていることについて、社会人の僕のほうが学生の皆さんよりたくさん勉強していると思います。でも学生の皆さんこそしっかり勉強するべきですよね。実は、社会人も大学生も勉強しないで乗り切れるんですよ。反射神経、常識、ノリなどがあれば(笑)。ですが、僕は常にエコノミスト、フィナンシャルタイムズ等をチェックし、それ以外にも色んな本を読むようにしています。また、同世代のビジネスマンの中では、一番勉強しているくらいの自負を持っています。そのような積み重ねで少しずつ差がつきますよ。皆さんにも世界で起こっていることも常に意識して、これからも勉強してほしいなと思います。
編集後記

  グローバルに活躍することに憧れているけれど、その途方もない大きな目標に、具体的に何をしていいのか分からない人も多いと思う。そのような人の1人である僕にとって、実際にグローバルに活躍されている岩瀬さんから、直接、世界のビジネス・レベル等について伺えたことは、知識・情報が得られたということ以上に重要な意味を持つことになった。さまざまな現場を知っているからこその説得力。努力することで、グローバルに活躍することも夢じゃないと感じた。日本の現在の状況を憂う人はとても多いが、自分の置かれている状況について、自分で考え、行動する必要がある。現在グローバルに活躍している人達が、リスクをとって果敢に挑戦していた年齢に、僕もあっという間に到達してしまうことを意識し、毎日必死に努力していきたいと思う。

大芝 竜敬(会計研究科2年)