Vol. 25 「スキル(英語力)・教養・センス・自立心・人間力を備えた新世代リーダーへ」

CATEGORY : 民間企業
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株式会社東洋経済新報社
デジタルメディア局 東洋経済オンライン編集長
佐々木 紀彦

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。09年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。『30歳の逆襲』、『非ネイティブの英語術』、『世界VS中国』、『ストーリーで戦略を作ろう』『グローバルエリートを育成せよ』などの特集を担当。『米国製エリートは本当にすごいのか?』(東洋経済新報社)を2011年に出版(発行部数5万部)。

【2013年3月22日公開】

日米の学生の差を生んでいるのは読書量

アメリカの大学院に留学されたご経験から、アメリカの学生の能力についてどう思われますか?
アメリカの学生の質の高さは大きく分けて3つの要因があると思います。まずは、読書量です。アメリカの大学生の能力は、圧倒的な読書量と圧倒的なレポート量、そして圧倒的なプレゼン量に支えられています。特に私が通っていたスタンフォード大学の学部生は、授業において大量のリーディングアサインメントを強いられるため、4年間に約500冊も本を読むことになります。そして、読書によって大量にインプットされた情報や知識を、レポートやプレゼンを通してアウトプットし、他の学生や教授との議論を戦わせることで、自らの知的筋力を養っていくわけです。端的に言うと、日米の学生の差を生んでいるのは読書量だと思います。アメリカの調査機関「NOPワールド」の調査によれば、一週間当たりの活字媒体読書時間の世界平均が6.5時間なのに対し、日本は4.1時間で、世界で2番目に読書量が少ないことが分かりました。やはり若い皆さんは学生のうちに、できるだけ多くの本を読むべきですね。
2つめは集団知です。福沢諭吉は日本人と西洋人の集団行動について次のように述べています。
「日本人は団体行動をする段になると、個人個人に備わった知性に似合わぬ愚を演ずる」
「西洋人は集団をなすと、一人ひとりに不似合いな名説を唱え、不似合いな成功を収める」
アメリカをはじめ西洋は、個人主義が強いイメージがありますが、それは幻想です。実際スタンフォードの授業の評価でも、グループワークやプロジェクトへの貢献度などが重点的に評価されています。アメリカの学生はプレゼンや議論を大量にこなすため、集団で物事を考えたり、それを実行に移す能力が、日本人に比べて長けていると思います。
そして3つめは、教養・リベラルアーツです。アメリカの大学には、学生が豊かな教養を養えるような環境が整っています。教養と専門のイメージは、木に例えることができます。専門分野ばかり磨くことは、殺風景な景色の中に、枯れた木を一本立たせるようなものです。これを続けても決して森へと成長させることはできません。なぜなら、専門ばかり磨く人には「教養」という豊かな土壌がないからです。しかし、教養という豊かな土壌がある人は、その土壌の上に豊かな専門という木を何本も立たせることができ、これらはやがて森へと成長していきます。このように教養がなければ、専門分野を大成させることは難しいのです。自分の専門と一見関係ないような知識を教養・リベラルアーツとして自分の中に取り込むことにより、思わぬアイデアが生まれてくるものです。例えばアップルの創業者スティーブ・ジョブスは「テクノロジーとリベラルアーツの交差点に立ってきたから、アップルの製品が生まれた」という言葉を残しています。彼は大学を中退後、大学でたまたま聴講生としてカリグラフィーの授業をとり、それがアップルの美しいフォントを作るきっかけになったと言っています。アップルの製品には、ジョブズがたまたま学んだカリグラフィーの要素がふんだんに盛り込まれているのです。
日本の大学は、入学する際に自分の専攻を決めなければなりませんが、これは良くないシステムだと思います。大学生に関しては、昨日の今日で自分のやりたいことが変わるのは日常茶飯事なので、長い時間をかけて、自分が本当に学びたいことを見極められるようなシステムにすべきです。そして、その間に自分の教養をたくさん磨いて、その後の専門分野の研究に生かせるようにすべきです。

アメリカでは勝負時は遅く来る

日本のアメリカのエリートの差は、どうして生まれるのでしょうか?

中国にスタディートリップに行った際の一枚

日本はうさぎ、アメリカは亀であると感じます。あくまで個人的な感覚であり、科学的根拠はないのですが、大学に入学するまでは、日本のエリートの方が、アメリカのエリートよりも知的能力は上回っていると思います。しかし大学入学後はそれが逆転し、アメリカのエリートに追い越されてしまいます。厳しい受験戦争を勝ち抜いた日本のエリートは、大学生になると、その反動で少しペースダウンしてしまいがちです。高校生の時にあまり遊べなかったかわりに、大学生活ではたくさん遊んでしまおうという感覚です。しかし、アメリカの学生は逆で、それまでの遅れを取り戻すかのように、大学生になって勉学に励みます。この違いが、日本と米国のエリートの差を生んでいる気がします。
アメリカのエリートの就職状況について教えてください。
アメリカでは今や金融ブームが終焉したと言われています。しかし、リーマンショック以前までは、大学や大学院卒業後の進路としては金融の分野が最も人気でしたし、現在でも多くの学生が金融の分野に就職しています。ところが、金融に進んだ学生がみな、金融の仕事に就きたいと希望しているわけではありません。事実、ハーバード生を対象としたアンケートでは、将来の理想の職業として、金融は最も低い支持しか得られませんでした。それではなぜ、多くの学生が金融の道へ進むのでしょうか。それは、金融の仕事で稼いだお金で、奨学金を返済したり、そのお金を軍資金として、自らの理想の職業にステップアップするためです。先ほどのハーバード生に対するアンケートでは、学生の理想の進路としてアートや教育、医療の分野が高い支持を受けています。このような学生にとっては、大学や大学院を卒業したあとの就職選びが勝負時なのではなく、卒業後に一旦就いた職業でお金を貯め、自分が理想とする次の職業へとステップアップする時が、本当の勝負時なのです。それに対して日本では、勝負時が22歳や24歳という若い年齢できてしまいます。卒業後の進路決定が勝負時とみられ、一旦ついた職業を踏み台にして次の職業へ、という感覚が薄い気がします。私は、アメリカのように勝負時が遅く来るというのは非常にいいことだと思います。またアメリカの就活では、コネや紹介によって就職先が決まることが非常に多いです。コネというとあまり良いイメージはありませんが、コネ作りはアメリカにおいては、学生時代にやっておくべき非常に重要なことです。

恋愛、そして失恋をして成長しよう

グローバルに活躍するための条件は何だと思われますか。

欧州や南米の友人と仲良くなるならサッカー

グローバルという言葉は、長らく人口に膾炙されて、かなり手垢のついたものとなっています。なので、ここでは、将来グローバルな舞台で活躍できるような人材を、新世代リーダーとよびたいと思います。
新世代リーダーとして必要な条件は、スキル(英語力)、教養、センス、自立心、人間力の5つです。
まず1つ目のスキルに関してですが、英語力を例に挙げると、TOEFLのスコアの国別ランキングで日本はアジア30カ国中27位で、韓国や中国を大きく下回っているんです。この差はパナソニックとサムスンの新人採用の英語力の基準に如実に表れています。パナソニックでは、海外勤務に必要なTOEICの点数が650点なのに対し、サムスンでは新人足切りの点数が900点なんですよ。
2つ目の教養ですが、これは、正しい読書、アート・スポーツ、深い経験の3つの要素によって精錬していくべきですね。
3つ目の美意識ですが、チームラボ代表取締役である猪子俊之さんは「すべてのビジネスはアートになる」と言っています。私は、知識や論理的思考だけではエリートの間では差がつかないと思います。差がつくのは、知識や論理よりも、勘やセンスだと思います。だから自分のセンスや美意識を磨くのはとても重要なことです。こればっかりは勉強で身につけるのは難しいです。映画、絵画、茶道、旅行、などさまざまな活動を通じて、多様な経験を積んでおくことが大切です。
4つめの自立心についてですが、これを養うにはまず親離れをすべきです。特に一人暮らしの経験がすごく重要だと思います。しかし、慶応や早稲田の現状を見ていると、完全に関東のローカル大学化しています。自宅から通う学生が多く、一人暮らしをしている学生が少ないように感じます。そして、親離れと同時に、日本離れも意識して行っていくべきです。海外でたくさん経験を積み、日本でなくても生きていけるような経験値や忍耐力を身につけるのです。この親離れと日本離れが両立して、初めて自立心を身につけることができると思います。
最後の人間力についてです。以前私は、男は、貧困、戦争、恋愛の3つを多く経験して成熟した大人になれると聞いたことがあります。学生のうちは、勉学ばかりに励むのではなく、たくさん恋愛すべきだと思います。その過程で失恋などを経験することで、人間は成長することができると思います。
作家の小林秀雄が残した言葉「女は俺の成熟する場所だった。書物に傍点をほどこしてはこの世を理解して行こうとした俺の小癪な夢を一挙に破ってくれた」からも分かるように、学生のうちは、勉学ばかりに励むのではなく、たくさん恋愛をすべきだと思います。その過程で、失恋などを経験することで、人間は成長することができると思います。

古典は教養を養う際の最良の教材

正しい読書というお話がありましたが、教養を身に着けるのに読むと良いジャンルはありますか。
アメリカの学生が寮で古典について議論を行うのは、豊かな教養・リベラルアーツを獲得することに主眼が置かれているからです。教養を養う際の最良の教材と言える古典や、歴史ものをたくさん読むのが良いと思います。古典では特にアリストテレスやルソー、カントなどがお勧めですね。古典、歴史を読むメリットは、①本質をつかめる ②総合的に考えられる ③効率が良い の3点です。今、日本では年間に約79,000冊の新刊が発売されていますが、その中にはハズレのものも多く、新刊を読むのは効率的だとは思いません。10冊中9冊はハズレと言ってもよいほどです。私も学生時代に、多くのビジネス書を読み漁りましたが、どれも役に立ちませんでした。出版社で働く私が言うのもなんですが(笑)。その点古典は出版されてから現代に至るまで、長きにわたりその価値が評価されてきたのですから、ハズレはほとんどありません。アメリカの学生寮には、寮生が古典を読み、それらについて議論をする場が設けられているほどです。古典を選ぶ際は、光文社文庫の古典新訳文庫をお勧めします。古典の翻訳といえば岩波文庫が有名ですが、岩波は好きではありません。わざと分かりにくくしているとしか思えません。その点光文社の古典新訳文庫はとても読みやすいです。

英語力を上げるためにはどうすればよいでしょうか。
まずは留学です。留学といっても、留学する期間や留学先の教育機関などによって多種多様なかたちがありますが、私は、高校時代で1年留学、大学で交換留学、大学院で留学、20代、30代で海外赴任。この4つを一つでも多く経験すべきだと思います。特に私は、高校時代に1年留学することをおすすめします。高校時代に留学を経験した学生は日本人の行動様式をしっかりと身につけていながら海外のことも良く知っているので非常にバランスがいいように感じます。このような学生が増えることを望みます。
あとは、TOEFL, TOEIC, BULATS(ブラッツ)などの各種試験を受けて、英語力を磨くことが大事です。しかし、必ずライティングとスピーキングが導入されている試験を受けるべきです。TOEICも今は、TOEIC SWというスピーキングとライティングの試験が導入された形式があるので、普通のTOEICは無視して、TOEFLやTOEIC SWの勉強に力を入れるべきですね。また、多少金銭的に余裕がある人には、通訳学校に通うことをお勧めします。日本人が英語を喋れるようになるためには、日本語から英語、英語から日本語への変換スピードを究極まであげることに重点を置いた方が効率的です。
最後に、米国製エリートは本当にすごいのでしょうか?
結論から言うと、すごい点もあれば、見かけ倒しな点もあり、我々は見習うべき点と、そうでない点をしっかり区別する必要があります。 
アメリカの学生と日本の学生を比べた際に感じるのは、上澄みの優秀な学生の間には、両国にそれほど差がないということです。日本の優秀な学生が、アメリカの優秀な学生と競っても、十分戦っていけるはずです。しかし、全学生の平均的な力を比べると、日本の学生はアメリカの学生に比べて大きく劣るように感じます。日本の大学は学生の平均力の底上げに努めるべきですね。
編集後記

スタンフォード大学大学院への留学のご経験をもとにした佐々木さんのお話は、将来アメリカの大学に留学を考えている私にとって非常に刺激的でした。教養を養うために古典を読むことや、TOEFLなどの英語の勉強方法など、今すぐに実行できるアドバイスがたくさんあり、1年生のうちにこのようなお話が聞けて本当に良かったです。また佐々木さんの「修行としての留学」という言葉は非常に印象に残りました。実際に留学してみて、アメリカをはじめ、世界各国のエリートから刺激を受けることはとても貴重な経験だと思います。佐々木さんが「早稲田の良いところは、留学制度の豊富さ」とおっしゃっていたように、自分も早稲田にいることの利点を活かして、留学をはじめ様々な経験を積んでいきたいと思いました。

森 雄志(政治経済学部1年)