Vol. 7 「文系・理系の垣根を越えて、自分と違う考えをもつ人にたくさん触れてほしい」

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Sato-Sensei

東京工業大学
グローバルリーダー教育院長
佐藤 勲

1958年東京都出身。81年東京工業大学工学部卒。83年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。84年同研究科博士課程退学。同年から東京工業大学助手、助教授を経て、2000年から教授。専攻は熱工学。2011年にグローバルリーダー教育院長に就任。

【2012年1月23日公開】

科学技術で社会を方向づけ、けん引していく人材を作りたい

グローバルリーダー教育院のしくみについて教えてください。
理工系を中心とする大学だからこそ科学技術に立脚する社会をリードする人材を養成したいということで、グローバルリーダー教育院を設置しました。今は9名の学生が所属しています。ドクターコースなので専門知識は絶対に身につけないといけません。それに加えて専門領域以外のところも繋げて見られるような俯瞰力を身につけ、国や文化を超えた基礎知識があり、さらにリーダーとして合意形成ができ、それを形にできる行動力をもって社会をけん引できる人材の育成を目指しています。グローバルリーダー教育院には、主専門の教育体系と並行して“道場”というものが設置されています。科学技術系と人文社会系の二つの道場があり、道場主と呼ばれる先生のもとで学生が自分自身でいろいろな活動をします。課外活動としてインターンシップに似た活動も行っています。実際に会社が求めているプロジェクトを3カ月から半年ほどかけて実施するという経験を修了までに必ず行います。
佐藤さんがお考えになるグローバルリーダーとは何ですか。
まず定義をしないといけませんが、グローバルリーダー人材とは「国際社会をこれからどうやって方向づけていこうか」ということを考える人だと思います。ここではそういう人を養成したいです。どうやって方向づけるかは、企業の中にいても、政治家であっても、学問の世界からでも何でもいいと思うんですね。その領域の中で自分の国の文化だけではなく、他の国にも影響を及ぼせるようなリーダーシップが発揮できる人を育みたいですね。幅は広いですが、共通していることは、いろいろな文化を理解した上で、自分の文化の強みをアピールし、両方を組み合わせて強みを作り上げて、さらにそれを説明でき、形にできる人材だと思います。
社会をけん引していくような人材というのはどのような能力が求められると思いますか。
まずはやっぱり気概ですよね。社会をリードしていきたいと自分が考えているということです。それがあると、社会をリードしようとして他の人とコミュニケーションを取らないといけないので、その能力が自然と身についてきます。いろいろな国籍や文化を持つ人たちとコミュニケーションをしていく上で共通の言語をツールとして使う必要があるので、英語に限らず、語学も勉強しないといけません。実はこのグローバル教育院コースの中には語学科目がありません。それは自分が必要だと思ったら自分自身で学んでくださいということです。当然、そのための機会は豊富に用意しますが、自分が必要とするものを習得できるように計画する、そういう意識を持たないと当然リーダーにはなれないですよね。

理工系だからこそ横に繋げる力をもってほしい

理工系の学生のグローバル人材育成において、特に注力されていることは何ですか。
道場の特徴は、国籍問わずいろいろな学生を混ぜましょうというのが一つ、もう一つはいろいろな専門をもった学生を混ぜましょうということです。社会をリードするとなると、様々な背景や考え方を持つ人を束ねないといけません。そうすると様々な分野の知識が必要になってきますので、社会や文化、経済から科学技術に至るまでの幅広い分野について、少なくとも話が通じるくらいの知識を身につけなければなりません。それから一番大切なのは人脈ですよね。全てを一人ではできないので、いろいろな分野の人たちと協力していかなければなりません。東工大の学生は自分の専門分野を深くやるのは得意ですが、他の人と協調することがあまり得意ではありません。だからこそ横に繋げるようなしくみを作りたいと思いました。理工系の学生は、自分が考えていることが本当に真理かどうかというのを追求します。それが学問の目的ということもあって、自分の判断は自分でする世界です。つまり先鋭化してしまうのですね。だから自分の専門領域に加えて横にも繋げる力を身につけてほしいです。
グローバルリーダー教育院の設置に当たっての佐藤さんの思いを教えてください。

道場の様子

別の側面として、グローバルに活躍できるリーダー人材を養成するために考えたしくみがグローバルリーダー教育院です。東工大では6人に1人が外国人留学生です。しかし、留学生との交流はどうしても研究室の中に限られてしまいます。だからこのようにミックスアップするしくみを作らないと、なかなかグローバルな視点は身に付かないと思います。専門分野についても同じです。そのミックスアップする一つのきっかけになればいいかなと思いますね。これからはもっともっと交流が増えていくと思います。グローバルリーダー教育院は5年間のコースです。道場で所定の単位を修得しても学生は道場に在籍しています。だから下級生の指導にも当たることになるので、文化なり専門なりをもっとミックスできるのではないかと思います。

理工系と人文系に分かれても両方学ぶ姿勢が重要

グローバルリーダー人材の育成において最も大事なことは何だとお考えですか。
他の地域や国の文化を理解すると同時に、自分の国の文化に誇りをもつことだと思います。学生にもそういう意識をもつように言っています。自分の文化というのはあまり意識しないし、自分の中で整理しないので、なかなかうまく言えませんよね。だからそれを意識するようにするのは結構難しいと思いますね。また、理工系の学生に関しては、やはり自分の専門領域に閉じこもらないようにすることが最も大事だと思います。カリキュラムでは社会との連携を重要視していますので、インターンシップの他に、国際機関や企業で働く人たちに来ていただいて、学生に話をしてからディスカッションを行います。社会とのつながりの意識をまずもってもらうことが大事ですね。
大学生のうちにやっておくべきことは何だと思いますか。
他の国の文化に触れることでしょうね。この国はこんな感じなのかとか、この食べ物は食べられないなとか、そういうことを経験することだと思いますね。やっぱり自分と違う考え方をもつ人との交流を経験することが大切だと思いますよ。それは国際的でなくても国内でもいいし、違う分野でもいいと思います。なぜ自分と違う考え方をするのかというのを自分の中で噛み砕いて理解する。その後にどのようにコミュニケーションをするかを考える、そういう経験をできるだけ多くすることだと思います。いろんな人とたくさん触れ合うことですね。

講義中の佐藤さん

最後にメッセージをお願いします。
今は理工系とか人文系とか、そういう垣根がない社会なのかもしれません。だからお互いに相手の分野の基礎素養を理解しているといいかもしれませんね。共同作業をするにはやはり話が通じないといけません。そういう意味で、高校のときに文系と理系に分かれるのは、本当は良くないと思っています。数学にしろ、歴史にしろ、人が生きていくための基盤ですから、やはりそれなりの基礎はお互いがもっていた
方がいいと思います。だから分野に限らず、何でも興味があれば今のうちにできるだけたくさんチャレンジしておくことを勧めます。
編集後記

グループワークの授業のことを“道場”と呼ぶなどとても斬新でユニークな教育体制をもつグローバルリーダー教育院。佐藤先生にお話を伺った中で、そこに所属する学生は幅広いカリキュラムの中で、自分で考え、自分で動くことを強く求められている印象を受けました。専門分野を追求しながらも幅広い教養知識を身につけるということは、博士課程の学生だけでなく、私たち大学生にとってもすごく大事なことだと感じました。早稲田大学にも副専攻を履修できる仕組みがありますが、学部や学年関係なく同じ授業で議論を交わしたのはとても良い経験になったのを思い出し、まだ受講したことがない人や4月に入学してくる1年生にはぜひお勧めしたいです。

陸 欣(国際教養学部4年)