Vol. 8 「登るべき高い山を持って、必死になって登っていけ。夢や目標を本気で目指すと、人は強くなれる」

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Okada-Takeshi

中国杭州緑城足球倶楽部監督
サッカー日本代表前監督             岡田 武史

1956年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。97年日本代表監督就任。フランス大会で日本を初のW杯出場へ。99-01年コンサドーレ札幌、03-06年横浜F・マリノスの監督を歴任。07年から再び日本代表監督、10年W杯南アフリカ大会でベスト16。現在は中国のサッカー・スーパーリーグ杭州緑城監督。日本サッカー協会理事(環境担当)、Okada Institute Japan代表理事、富良野自然塾理事。

【2012年1月27日公開】

日本人であることに誇りを持って、どんどん厳しい世界に出て行け!

サッカー日本代表の監督を二度務められましたが、どのようなことを大切にしていましたか?
世界との力の差を冷静に把握することかな。日本は、1998年のフランスのワールドカップ(以下、W杯)に初めて出たんだけれど、その当時の対戦相手はほとんどがテレビで観ている選手、つまり憧れの存在で、試合が終わったらサインをもらいに行きそうな感じだったね。要は同じ土俵で戦っていなくて、100メートル競走で言うと5メートルくらい後ろからスタートしているような感覚があった。W杯ってどんなもんかもわからないし。ところが、その後U18やU20とかいろんな世代が国際試合を経験していくにつれて、みんなが経験を積んで、2010年の南アフリカ大会のときは、ほぼ同じスタートラインからスタートできたと思うね。まだちょっと後ろだったけれど。日本人として劣っている部分は必ずある。でも、優れている部分もあるわけよ。それをきちっと分析して、把握する必要がある。例えば、ジャマイカのボルト(陸上競技短距離選手)っているじゃん。パワーで考えたら、日本人がどれだけ鍛えても勝てないよ。これは差があるなとわかる。でも、「あー、外国人の方がやっぱりすごいなー」とかじゃなくて、何が問題なのかをきちっと把握し、「持久力では十分対等に戦えるな」とか勝てる方法を考えないといけない。だから、W杯とか世界で戦うときに一番気をつけているのは、力の差を冷静にしっかり把握すること。「弱気じゃ駄目だ!」とかいう気持ちの問題ではなくて、しっかり分析して、その中でどう戦うか考えることが大事。相手がすごいからといって気後れしていては、はなからだめ。逆に、煽られて「絶対勝ちます、絶対勝ちます」って精神論だけでもだめ。そういうことに気をつけていたね。
世界を舞台に戦う際に必要なことは何ですか?
海外に行くときに、自分たちを卑下して、自分の国、自分に対して誇りを持っていないと必ず馬鹿にされる。俺もドイツに一年住んでいたけれど、差別は必ずあると思う。でもそんなの関係なくて、日本人としてのアイデンティティに誇りを持つことが大事。今は、「日本人はすごい」って煽るような風潮もあるんだけれど、それもやっぱり違う。自分たちに素晴らしいところがあると同時に、相手にも素晴らしいところがあるっていうことを認められる度量がないといけない。代表チームは、日本に対する誇りを持っていないと戦えないんですよ。下手に勘ぐると変なナショナリズムになってしまうけれど、本当のナショナリズムっていうのは自分に愛する故郷があるように、相手にも愛する故郷があることを認める、ということ。自分たちだけじゃないんだよね。俺たち、南アフリカ大会でパラグアイにPKで負けたんだけれど、パラグアイの選手たちは勝った瞬間みんな大喜びしていた。その中で、一人だけホセ・サンタクルスという選手が日本人選手のところにスーッと来て、肩を抱いて握手していった。素晴らしいなぁと思った。こいつは、「日本は負けたけれども、日本人も同じように国を愛して戦ったんだ」ということがわかっていたんだよね。そういう度量というか、幅を持っていることが大切だと思う。
日本人であることに誇りを持つようになったきっかけは何でしたか?
俺は中学を卒業したら高校に行かないで、海外でプレーすると言って親を困らせた。全然上手くなかったんだけれどね。でも、いつか努力したら、ヨーロッパのプロのやつらに追いつくってずーっと思っていたんだよね。ところが、34歳のときにバイエルン・ミュンヘンというドイツのチームと戦ったときに「俺がこれからどれだけ努力したとしても、こいつらには追いつかない」って感じた。その瞬間、自分の選手人生に終止符を打ち、後進の指導に当たろうと決意した。それ以来、日本代表チームが世界で戦うときに、どうしたらこいつらに勝てるのかっていうことをずっと考えてきた。そういう意味では、だいぶ前から日本人の良さを見なければという感覚があったのかもしれない。サッカーだけじゃないんだけれど、日本人の社会はある程度コンプレックスの社会。サッカーの世界で言うと、ヨーロッパや南米の誰々がこう言っているって必ず言う。俺が記者会見をしても、「世界で戦うにはこうじゃないんですか?」って聞かれる。「何で?」って聞き返すと、「ヨーロッパの誰々がこう言っています」って。俺は「そんなに日本人はだめかい?」ってずっと思っていた。日本人には日本人の良いところ、外国人には外国人の良いところがある。でも、日本人は、自分たちの良いところを見ないようにしている。オシム(サッカー日本代表元監督)の後に、日本代表の監督を引き受けたのは、そんな悔しさがあったからなんだ。

自分の責任でリスクを冒せないやつは世界なんかで勝てない

世界で活躍できる選手には、どのような共通点があると思いますか?
今まで多くの選手たちを見てきて思うのは、成功する選手は物事をポジティブに考えるということかな。表現が難しいけれど、ある程度いい加減なやつ。この前日本代表のマネージャーに電話したら、たまたま近くで練習していた長友(佑都選手)に代わってくれて、いろんな話をしていたら最後に、「岡田さん、今日はわざわざ僕のために電話をありがとうございました!」って(笑)。あいつが海外で活躍できるのも、このくらいの図太いポジティブさがあるからだと思うよ。あとは、自分で判断できるかどうか。これは個人だけじゃなくて、チームとして世界で勝つためにも重要。なでしこの佐々木則夫(監督)も言っているけれど、監督に言われたことをこなしているだけのチームじゃ勝てない。でも、日本の選手は保証を欲しがる。「ミスしていいからシュートを打て」「捕られていいから、勝負しろ」って。それなら誰でもできる。世界で勝つためには、自分の責任でリスクを背負って、判断する勇気を持たないとだめだ。だから、俺は監督として原則的な指示は出すけれど、それ以上は言わない。監督の言う通りにしか動けないなんて、そんなの選手じゃない。それで何が面白いんだ?自分の責任でリスクを冒していくことが、スポーツの最高の楽しみ。だから、自分で判断できるということが、世界に出て行くのに大切だよね。
国内外でプレーする選手の間には、どのような違いがあるのでしょうか?
選手に違いがあるというか、Jリーグのレベルがまだ低いからしょうがないんだよね。人間ってやっぱり弱いから、追い込まれないとできない。やらなくて済むことはやらない。世界のレベルを想定してプレーしなければならないと頭ではわかっていても、実行に移せないよね。だから、手っ取り早く上手くなりたいなら、海外の厳しい環境に出ていった方がいい。Jリーグのレベルを上げるには時間がかかるから。海外の選手は意識が違うよ。日本だとレフェリーがすぐファールをとるから、選手も簡単に倒れるけれど、海外はファールをとらないからね。長谷部(誠選手)なんかは、ほんと倒れなくなった。海外のチームに外国人枠で獲られるってことは、現地の選手より上手くないといけない。だから、いろんなプレッシャーがある中でやっている。プレッシャーっていうのは重力と一緒で、重力がなくなると筋肉も骨もだめになる。宇宙飛行士は、宇宙に行くと骨がすかすか、筋肉がブヨブヨになって、地球に戻ってくると立てなくなる。それと一緒で、人間は重力がかかっていないとどんどんだめになっていく。選手の意識についてもそういうことだと思う。

外国人にも尊敬される「何か」を持っている人がグローバルに活躍できる

「グローバルに活躍する人」にどのようなイメージを持っていますか?
俺の友人でも、グローバルに活躍している人はたくさんいるよ。指揮者の佐渡裕さんは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団なんかで指揮している。「こいつすごいなぁ。グローバルだなぁ」って思うわな。その一方で、和太鼓の第一人者の林英哲さんは、和太鼓だけれど世界ですごく認められていて、日本での評価よりも海外の評価の方が高い。そうやって見ると、グローバルに活躍しているのは「外国人にも尊敬される何かを持っている人たち」だな、僕のイメージではね。この前も建築家の隈研吾さんと対談したけれど、隈さんは日本にいるより海外にいる方が長い。隈さんの事務所に行くと半分以上が外国人の学生で、みんな隈さんのところで勉強したいってやって来る。要するに、外国人の目から見ても尊敬されるところを持っている人だな。
グローバルに活躍するためには、どのようなことが必要だと思いますか?
やっぱり熱中しているものを持っていて、何か一つのことを一生懸命やっていることかなぁ。結果的にそれが秀でればすごいと思う。リーダーには語学力や決断力、洞察力が大事だってよく言われるけれど、一番大事なのは登るべき山を持って、必死になって登っている姿を見せること。要は、人は聖人君子についていくんじゃない。志の高い山、夢に向かって登っている人を見て、「この人についていこう」って思うんだよね。例えば、坂本竜馬は良いリーダーになろうなんて思っていない。「この国を何とかしなきゃ」と思っていたら、みんながついてきたわけ。だから、自分の目的を持つことが大事なんじゃないかな。

「遺伝子にスイッチを入れる」経験を自ら作って強くなれ!

若い世代が「内向きだ」と言われていますが、そのように感じることはありますか?
同じように感じるよ。でも、さっき言ったようにやらなくて済んだらやらないんだ。俺だってそうだ。だから、若いやつのせいじゃない。そういう社会を作ったのは誰だ?我々だろって。我々が便利、快適、安全が素晴らしいと思って作った豊かな社会が、実は何もしなくて済んでしまう社会だった。「よーし、ここで頑張らなきゃ」って頑張らなくても、引きこもっていても生きていけるようになった。だから、環境を与えてあげなければならない。それで、昔やっていたボーイスカウトで自然を乗り越えた達成感を思い出して、野外体験活動を始めた。(2011年)夏に、2泊3日で大学生と神奈川県の丹沢に行ったんだけれど、何もないところに寝かせてね。トイレを自分で掘らせて、飯も釜で作らせて、ヤマビルに血吸われながら過ごして、沢を登らせるんだけれど、みんなほんとによく頑張った。やればみんなできるんだ。だから、ある意味かわいそうなんだよね。僕らの世代も豊かだったけれど、それなりに自然と苦労をしてきた。でも、今の世代は高いレベルで暮らしていける。ぼけっとしていたら、そういう環境がないからチャレンジしなくても済む。だから、自分で山を作ってチャレンジしなければならない。若い世代が弱いというのは事実だと思っている。でも、問題は彼らにあるんじゃなくて、環境にあると思っているよね。
若い世代に経験してほしいことはありますか?
「遺伝子にスイッチを入れる」経験が大事だと思うね。生きていくだけで素晴らしい、その通りなんだよ。でも、何か目標や夢を持ってチャレンジするようになると強くなる。俺は、これを「遺伝子にスイッチを入れる」って言っている。人間はみんな強い遺伝子を持っているけれど、のほほんとした暮らしをしているとスイッチが入らないんだよ。今はスイッチを入れるチャンスがないなと感じる。もう一つは、限度を知ることが大切。今の社会、人間は傲慢になっている。科学技術で何でも解決できる、何とかなると思っている。人間が限度を知らなくなったのは、自然に接しなくなったからだ。山の中に一人で入ったとき、絶対に自然にはかなわない大きな力があることがわかる。だから、自然と接して達成感を味わうとともに、限度があるってことを知ってほしいね。あとは、学生だから勉強はした方がいいよ。でも、勉強するっていうのは先人が経験したことを読むことで、「二次情報」なわけよ。それを学ぶのはすごく大切だけれど、一番大事なのは「一次情報」、つまり自分が経験すること。勉強してきたことを、どこかで一次情報の体感とマッチさせる。そのために、いろんなことを体験することが大切だと思うよ。
一般社団法人Okada Institute Japan (OIJ) HP
http://www.iokada.jp/
NPO法人C・C・C富良野自然塾HP
http://furano-shizenjuku.yosanet.com/

2011年9月神奈川県丹沢プロジェクトの様子

  • 岡田さんの写真(OIJ提供)

    神奈川県の丹沢にて

  • 直前の大雨で水量の増した沢を登る

  • 参加学生と環境や経済について
    ディスカッション

※写真は全てOIJ提供
編集後記

「海外への憧れ」を抱くことは、自分の視野を広げ、モチベーションを高めるきっかけになります。その一方で、「日本はだめだ」と漠然とした劣等感を抱くのではなく、自国と自分に誇りを持つことが大切だと痛感しました。それは、国内と海外を比べる場合だけでなく、自分と他人の比較の際にも同じことが言えると思います。まず現状を把握し、それから課題を解決するための方法を冷静に考えていくべきだと学びました。自らチャレンジする機会を作り、高い「山」を目指して登っていきたいです。

西辻 明日香(商学研究科1年)