Vol. 2 「どこの国で何にチャレンジしてもかまわない。狭い日本を出てみることだ」

CATEGORY : 大学
Uchida-sensei

早稲田大学副総長(国際担当)
国際学術院教授
内田 勝一

1946年生まれ。専攻は民事法学。70年早稲田大学法学部卒。72年同大学院法学研究科修士課程修了。75年同研究科博士後期課程修了。77年早稲田大学法学部専任講師、79年同学部助教授、84年同学部教授、2004年早稲田大学国際教養学術院教授就任。同大学国際教育センター所長、別科国際部長、国際教養学部長などを歴任。

【2011年10月11日公開】

世界的な課題の解決に貢献する人材

早稲田大学にとって「グローバル人材」とはどのような人材を指すのでしょうか。
そもそも「グローバル人材」という言葉の背景には、グローバルに事業を展開する日本企業の存在があります。海外での収益が増大する中でグローバルに働いて企業の利益を拡大する人材が必要だ、という経済的な要求ですね。もちろん企業のための人材を作るのも大学の1つの重要な役割です。しかし、大学はより広義のグローバルな問題、現在ではエネルギー問題や環境問題、食料、貧困、テロなど様々な問題がありますが、それら世界的な課題の解決に貢献する人材を育成する必要があります。人々が平和に生活して民主主義的な社会になり経済的に繁栄する、それこそが世界的な課題であり、そこに貢献できる人材が「グローバル人材」であると思います。
「グローバル人材」に必要な能力や資質はどういうものだと思われますか。
いくつかの構成要素がありますが、以下の4点にまとめることができると思います。
1.「批判的思考・一般教養」(たんに一般教養があることではなく、物事を批判的に検討し解決策を考える力)
2.「専門的分野」(大学卒業後、社会に貢献する際の基礎となる専門知識)
3.「人間力」(新しい課題について自ら調べる意欲や、困っている人々を連帯して助ける行動力など)
4.「語学力」(英語は必須。さらに学んだ外国語の背景にある文化や社会を理解し、共存を考える力)
これらの能力を獲得するうえで、日本の大学で機能しているのがゼミや研究室です。海外の大学にそういったものはありません。海外のように個人主義的な自主性も大事ですが、日本のように集団的に議論をして結論を出す力を養うことも大切なのです。
海外の大学ではどのような教育が行われているのでしょうか。
日本とは教育の方法がまったく異なります。たとえば、アメリカのリベラル・アーツ・カレッジでは、各授業は大体20人程度の少人数クラスであり、週に5時間程度(1回50分の授業が3回、100分の授業が1回)の授業時間が確保されています。毎回、予習として大量のリーディング課題を読んでくる前提で、授業自体はディスカッション中心で進みます。明日までにこの本を読んで来てください、と先生に言われることもあるでしょう。そのように海外の大学では集中的な教育をします。今後は早稲田大学も少人数クラス、ディスカッションベース、課題解決型の教育を増やしていく必要があります。

海外の大学との多彩な交換プログラム・内なるグローバル化で「変わる」

早稲田大学は「グローバル人材」を目指す学生に何を提供しているのでしょうか。
「グローバル人材」を育成するうえで、早稲田大学の特徴は、海外の大学との交換プログラムをたくさん提供していることです。学生は海外の大学に行くと変わります。自分と同じ世代の人がどれだけ勉強しているか、母国や社会全体が今後どうなるべきかをいかに真剣に考えているか、そんな姿を目の当たりにした早大生には必ず変化が起きます。そのための手段として多彩なプログラムを用意しているのです。しかし、すべての学生が参加できるわけではありません。金銭面や時間的な制約があるためです。そこで内なるグローバル化として大学内をグローバルな環境にしています。11号館付近では、空港同様に様々な言語が聞こえてきます。東大や京大の人が早稲田に来ると、留学生の数と多様な言語に驚いて帰るのですよ。国内の早大生も留学生と積極的に交わることで変化してほしいと思いますね。
学生は学生時代に何を経験するべきでしょうか。
とにかく海外に出ることですよ。長期休暇中に短期プログラムを利用して1カ月でもいいです。外から日本を見てください。そうすると、日本人とは何か、日本から世界に発信する特殊性とは何か、日本のアイデンティティとは何か、ということを意識できます。どこの国で、どの言語で、どういうことをやってもいいです。狭い日本から1度出てみてほしい。早稲田には例えば、韓国語で4週間、渡航費・食費・授業料込みで10万円くらいの短期プログラムがあります。日本で1カ月生活するよりも安いし勉強もできる、ロシア語や中国語のプログラムもある、早稲田にはそういうプログラムが他大学とは桁外れにたくさんあるのです。ぜひ利用してほしい。アルバイトで10万円くらい貯めて日本語が通用しないところで1カ月暮らす。そんなことを是非やってほしいですね。
海外を経験した学生はどのように「変わる」のでしょうか。
それは人によって異なりますが、早稲田から海外に出る留学生で一番変わるのは中国に行った学生、という印象がありますね。早稲田から行く中国の大学というのは、要するに中国のトップ校ということになります。つまり、そこにいる中国の学生は将来指導者になる立場であり、中国の社会をこう変えなくてはいけない、中国をこういう国にしていかなくてはならない、ということを日々熱く語っているわけです。そこに早稲田の学生が入る。自分も日本という国について真剣に考えるようになる。そうすると、帰国後に日本の将来を熱く語る学生に「変わってしまう」わけですね。海外に出たことの結果は人によって違いますが、「変わる」可能性は非常に高いです。

4つの視点を早稲田で学ぶ(グローバル・リージョナル・ナショナル・ローカル)

最近の若者の「内向き志向」について、ご意見をお聞かせください。
正確には「内向き志向」に見えるところがある、といったところでしょう。「内向き志向」の根拠として言われているのが、アメリカに行く日本人留学生数の減少ですが、それには様々な理由があります。アメリカで学ぶ日本人留学生数は1994年が最も多かったのですが、当時と比べると現在の大学生世代の人口は40%減少しました。当時は205万人ですが、今は120万人です。また当時の留学生は大学院生が多かった、つまり企業が金銭面を負担して派遣していたわけです。それも今は減少しています。さらにその頃に比べて、アメリカの私立大学の授業料がとても高くなったことも一因でしょう。以上の理由から日本人留学生数は減少していますが、人口からみたパーセンテージは実は変わっていません。アジアからの留学生が増加したこともあり、相対的に日本人が「内向き志向」に見えるということだと思います。
実際に早大生と接する中で感じる変化はありますか。
むしろ最近までは「内向き志向」が強かったように思います。日本は食べ物がおいしく、経済的に豊かで安全です。日本での生活は快適なのでしょう。それがここ数年、特に震災を境に変化しました。日本は人口減少や少子高齢化、円高と多くの問題を抱えており、日本企業はもう国内だけでは展開できません。そうした中、法学部の私のゼミで面白い現象が起きています。長期休暇を利用して、ロシアや韓国、中国の短期プログラムに参加して語学を学ぶ学生が増えたのです。理由を尋ねると、今後はシベリア開発が日本の商社にとって重要であるためロシア語を学ぶ意義がある、と答えます。彼らは今後30年間日本に仕事があるとは思っていません。外に出なければ自分たちの将来がないことを理解し始めたのでしょう。
すべての学生がグローバルに活躍するべきでしょうか。
そうではありません。卒業後に地元に戻り、地元の発展に貢献することも重要なことです。しかし、地元の国立大学に進学した人と、早稲田大学に進学した人が地元に戻ってから同じではいけません。全員がグローバルに活躍すべきなのではなく、学生時代にグローバルな社会を理解することが重要なのです。日本中・世界中から多様な学生が集まって議論する環境が早稲田にはあります。そうした多様な学生と積極的に交わって、グローバル(欧米を含めた全世界)・リージョナル(アジア地域)・ナショナル(日本国内)・ローカル(日本の地域社会)、の4つの視点を学んでください。将来4つの分野のどこで活躍してもかまいません。日本の産業のあり方を学び、グローバルな社会を理解し、日本のアイデンティティをどこに持つかということを考えて、生涯実行していく人を目指してください。

大学間の国際交流式典

  • 司会をする内田先生

    司会をする内田先生

  • 日韓ミレニアム

    日韓4大学で行うミレニアム会議の様子

  • US Japan Research Institute

    US Japan Research Instituteの様子

編集後記

学生は海外に出ると必ず変わる。私自身、アメリカ留学中に出会った中国人や東ティモール出身の友人に刺激を受けた記憶があります。「卒業後はアメリカで働く。でも3年だけだ。アメリカで学んだ経験を活かして俺は中国でビジネスを興す」「私は東ティモールの国費で留学しているの。だからウィンター・ブレークも大学に残って勉強するわ。将来は母国の発展のために貢献したい」世界中から集まる学生と接するうちに、日本とはどのような国であるのか、何を強みとしているのか、なぜ戦争をしなければならなかったのか、なぜアジアの小国が世界第3位の経済大国であり得るのか、など様々なことを考えるようになりました。語学力の向上はもちろん重要ですが、こうした「変化」が海外に出ることや多様な学生と交わることで得られる最も大きなものである、と自分の経験からも実感しました。

二瓶 篤(政治経済学部5年)

Vol. 1 「グローバルな問題に関心を持つことは、大学生の社会的責任である」

CATEGORY : 大学
Hata-sensei

早稲田大学社会科学総合学術院教授
国際コミュニティセンター長
畑 惠子

専攻はラテンアメリカ政治史。津田塾大学卒、上智大学大学院修士課程修了。筑波大学ラテンアメリカプロジェクト準研究員、上智大学助手、中部大学国際関係学部助教授を経て、1993年早稲田大学社会科学部助教授。1995年同教授。2008年11月から国際コミュニティセンター長。メキシコ国立自治大学留学(1980-81)、メキシコ大学院大学客員研究員(2002-04)。

【2011年9月22日公開】

全員に共通の言語を自然に選ぶ

国際的な環境で、印象に残っている出来事をお聞かせください。
メキシコ大学院大学で在外研究をしていた頃の話です。当時私は、様々な国から集まった人々とともにゲストハウスで共同生活をしていました。そこで印象的だったことが、「全員に共通の言語を自然に選ぶ」ということです。日本人同士で会話をしている中にアメリカ人が入ってきたら、言語を日本語から英語に普通に変えるという具合ですね。特にヨーロッパ出身の人々は多言語ですから、フランス人とドイツ人がフランス語で会話をする中に、私が入ると言語がスペイン語に変わり、さらにインド人が入ると今度は英語に変わる、ということもありました。全員が会話の輪に入れるように自然にできるのは素晴らしいことだと思います。
そうした環境で困ったことや違和感を覚えたことはありましたか。
日本人の中に、国際的な環境でも、自分たちがマジョリティであれば日本語で通してしまう人がいたことです。当時招聘講師として滞在していた、ある日本人の教員は、私が他の国の方と会話をしていてもいつも日本語で話しかけてくるので、とても違和感を覚えました。同じ国の人に日本語で話しかけるのは当然かもしれませんが、日本語を理解しない人がいる集団の中ではやはり良くないことだと思います。各国から集まる人々の中には、共通にコミュニケーションできる言語を自然に選ぶ雰囲気があることが私には衝撃的でしたし、共通の言語がある場合はそれを探す努力をするということが重要ではないか、と感じましたね。

大学教育を受けた人間の社会的責任

「グローバル人材」に必要な能力や資質はどういうものだと思われますか。
最近CSR(企業の社会的責任)がよく言われますが、私は「大学教育を受けた人間が負うべき社会的責任」というものもあると思っています。日本では大学教育が当たり前になっていますが、世界的に見た場合は大学教育を受ける人間はそれほど多くありません。そう考えると、大学で国際的な問題について様々な角度から学び、広い視野から考える機会に恵まれている人間は、グローバルに活躍する能力・資質を備えているはずであり、グローバル社会に対してある種の責任を持っているのではないでしょうか。自分にとって身近でない問題でも、日常的に興味関心を持っておく。そして機会があれば主体的に働きかける。今の大学生には自分のことで精一杯という感じの人も多いので、もう少し社会に関心を持ってもよいのでは、と思いますね。
早大生は大学をどのように活用するべきでしょうか。
やはりまず挙げられるのは国際コミュニティセンター(ICC)ですね。インターナショナル・スチューデントとローカル・スチューデントが時間を共有して相互理解を深めるというのは素晴らしいことだと思います。ただ、今はまだ異文化交流が特別なものという感じです。もう少し自然に留学生がサークルや課外活動に参加し、自然に共通の言語で話すことを選べるようなキャンパスになればよいですね。また興味関心を広げるという意味では、通常の講義やゼミなどあらゆるところにチャンスがあります。単位が必要だから講義に出るのではなく、幅広く知識を吸収できる機会と捉えて様々なことに関心を持って欲しいですね。せっかく努力して早稲田大学に入ったのですから、そこで勉強する機会を得たことの幸運を感じてもらえれば、と思います。

ラテンアメリカに興味を持たなくなった早大生

最近の若者は「内向き志向」と呼ばれています。長年早稲田大学で教鞭をとっておられる先生から見て、学生に変化はありますか。
私の専門はラテンアメリカ地域研究ですが、肌で感じることは、学生さんたちがラテンアメリカに興味を持たなくなった、ということですね。日本との経済的な関係や食糧・資源問題を考えると、もう少し注目されるべき地域だと思います。しかし実際には、他地域への関心よりも、経営学を中心に、企業に入ってから役に立つことを学びたいという人が多く、ますます増えているように感じます。大学は企業人を育てる機関ではないと考えています。ですから、学生さんたちがあまりに就職を意識した選択に偏るのは残念です。大学時代に社会に出てからではできないことをして、経験の幅を広げる、というバイタリティが失われているように思います。アルバイトにしても、何かやりたいことのためにお金を稼ぐのではなく、将来就職の役に立つからという理由でアルバイト自体が目的化して一生懸命やっていたりする。それでは本末転倒のような気がします。
学生は学生時代に何を経験するべきでしょうか。
学生時代にしかできないこと、に尽きると思います。時間があって様々なことができるのは学生時代だけです。それを就職の予備期間みたいに使うのはもったいないことです。やりたいことが見つからなければ、何でも手当たり次第にやってみることが大事です。受験の疲れからか、とくに大学一年目が脱力的というか、目標をなくして何もせず過ごしている人たちが少なからずいるように見えます。そこを上手に活用できれば、その後の学生生活も上手くいくと思います。海外に出ることだけが全てではなく、サークルなど他人とつながれるような活動に参加することも大事ですね。
畑先生が今大学生だとしたら、何をしたいと思いますか。
私が大学生だった頃は、今のように海外旅行が容易ではありませんでした。だからこそ、もう少し早い段階で様々な国を実際に見てみたいと思いますね。またボランティアなども、今は様々な機会があるので挑戦してみたいです。また、私自身がラテンアメリカに興味を持ったのも、本との出会いがきっかけなのですよ。だから本はたくさん読みたいし、今の学生にも読んでもらいたいですね。思わぬ出会いがあると思います。

メキシコ在外研究時代

  • メキシコ大学院大学

    メキシコ大学院大学の全景。1940年設立

  • クリスマスパーティ

    大学でのクリスマスパーティ

  • ホームパーティ

    教員宅で、研究者たちとパーティ

編集後記

早稲田大学で学ぶということ。世界的に見たらそれは特別エリートな人材を意味することではないが、大学教育を受けられた幸運な人間である。そして様々な国際的な問題を学び、知っている人間だからこそ興味関心を持ち続け、機会が訪れれば働きかけていく。それが大学生の社会的責任であり、「グローバル人材」の資質である。大学教育を受けている時点で世界的に見たら「グローバル人材」であり得る、という新たな視点を得ることができました。また、確かに最近の学生は同じようなアルバイトに必死になり、同じような研究テーマに集中するという側面があると思います。もっと将来に全然関係なくても「好きなことをやる!」という自由な空気があってもいいのではないか、と感じました。

二瓶 篤(政治経済学部5年)

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